インカの巨大な石壁を目の前にすれば誰しもその造りに畏怖することでしょう。
多角形の切石が隙間がなく積まれているからです。
小さな石でも何十トンの石でもすべてこの組み方で出来上がっています。
よく「カミソリの刃1枚通らないほど精密なインカの石積み」と書かれていますが決して
オーバーではないのです。
もし全ての石の形がそろっているのなら、隙間なく石組みをすることは不思議ではありませんが
形が違う石をぴったり合わさっているのを目の当たりにすると、どうやって組んだのだろう、不思議に
思えてきます。
特にアルマス広場の東側に続くハトゥン・ルミヨク通りの石壁に、有名な「12角の石」があります。
第6代皇帝インカ・ロカの宮殿の礎石として使われたものです。
この通りの石組みは、こうした多角形を複雑に組み合わせたジグソーパズルのような石組みで、12角の石が
隙間なくぴったりと壁にはめ込まれている光景は驚きです。
しかも表面は中心部で少し膨らみ、それが太陽の光で美しいシルエットを映しだすのです。
この見事な工法については古くから曰く、人間のやったことではなく、宇宙人の仕業ともいわれてきました。
石を柔らかくする薬草を使用していたのではないか、という説も膨大な労働力から推測すると現実的
なものではないからなのです。
しかし、近年の実験考古学の視点から少しづつその工法が分かってきました。
現在の石切り場の風景にあるような整然とした切出しの跡は全く発見されていません。
つまり自然に転がっている石を加工したという結論なのです。
道具はさまざまな石です。石で石を根気良く叩いて削ったようです。
実験の結果からの推測では、壁用の石、道具の石に適切なものを選んで4.5×3.2×1.7mの垂直面の
荒削りに要する労働は20人で15日になるようです。
ある遺跡に残る150個の石の土台でも8ヶ月はかかったといわれています。
ではその石をどう運搬したのかといいますと、人力で引きずったのです。
引きずった跡が発見されているのです。
しかし、全て石積みは公共か特権階級の建物に限られています。
大半の建造物は半加工や未加工の石をモルタルで積み上げています。
ペルーは日本と同じく地震国ですが、このようなインカ式石組みはもちろん地震にも強いのです。
スペイン人が、その土台に後からヨーロッパ風の建物を何度も建てても大地震の度に壊れて
しまいました。
しかし、インカの石組みはいつまでたっても崩れていないのです。
それにしても見事なものです。